手術・麻酔を控えた方、禁煙すると痛みが減ります?

トピック

タバコがなんとなく身体によくないと考えている方は多いと思います。しかし、手術・麻酔にはタバコは明らかに有害です。手術・麻酔を控えた方はこのコラムをお読みの上、必ず禁煙してください。

(1)禁煙の意義

これを機会にタバコを止めようと考えているあなたは、がんになる、虚血性心疾患になる、肺気腫になることから免れようと考えているかもしれません。ただし、手術を控えてタバコを止める意義は別のところにあります。タバコを吸っている人においては術後合併症発症率が高いことが報告されているのです。特に肺合併症、手術部位感染症、骨癒合不全などが有意に高くなることがわかっています。死亡率が高まるとの報告も見られます。手術や麻酔を控えて禁煙することは、これから受ける手術の(麻酔の)安全性を自ら高める努力といえます。

(2)喫煙の及ぼす影響-そのメカニズム

  1. 喫煙が生体に与える影響はタバコ煙に含まれる一酸化炭素(CO)、一酸化窒素(NO)、ニコチンやタールなどによることがわかっています。CO は酸素のヘモグロビン(Hb)との結合を阻害し、血液中の酸素の量を低下させてしまいます。さらに組織での酸素利用を難しくしてしまう作用もあります。その他、CO は筋肉での酸素貯蔵量を減少させ、細胞内でのエネルギー産生を抑制してしまいます。
  2. NO は血管拡張因子として有名な物質で、局所の血管を拡張させる効果があります。しかし曝露され続けると自らの血管でのNO産生が抑制されてしまいます。
  3. ニコチンには急性の影響として交感神経興奮を生じ、心筋の酸素消費量を増加させます。またニコチンは、気道分泌の増加や気管支収縮効果もあります。
  4. タールも気管を収縮させ、気道の易刺激性を高めるとともに気道の線毛運動を抑制してしまいます。
  5. さらにたばこの煙は麻薬や筋弛緩薬、局所麻酔薬などの効きを悪くするかもしれません。
  6. またたばこの副流煙によって気道感染が増加したり気道過敏性が高まることがわかっています。

(3)さらに重要なこと

  1. 喫煙者と非喫煙者を比べると喫煙者は術後の痛みが強いことがわかっています。
  2. また喫煙が術後ずっと続く慢性痛のリスク因子であるとの報告があります。
  3. 手術前に禁煙することで術後の痛みを軽減できることが示唆されています。

(4)禁煙の時期

主に組織の酸素需給に影響するCO とニコチンは、半減期が短いため禁煙後 2~3 日で酸素需給は改善します。禁煙後 3 週間ほど経過すると、術後の創合併症発生が減少します。禁煙後 4 週間以上で術後呼吸器合併症の発生は低下するようです。したがって、手術の2~4週間前から禁煙することが重要です。実際この時期から禁煙した方の合併症の発生は非喫煙者と同等と考えられています。

(5)術後の禁煙

術後長期にわたる禁煙は、がん疾患・非がん疾患において生命予後を改善するとの報告があります。

(追記)加熱式たばこと電子たばこ

加熱式たばこ(ニコチンを含む)や電子たばこ(通常ニコチンを含まない)は「健康リスクが少ない」「受動喫煙の危険がない」と誤認されていますが、プロピレングリコール(ひどい気道刺激性があり、発がん性も疑われる)などの有害物質を含んでおり、使用者および周囲の人々に危害を及ぼす可能性があります。またWHOをはじめとする国際的な保健機関の多くが、その危険性に対して警告を発しています。これらのたばこも手術前には止めておいた方が良いでしょう。

副院長 兼 麻酔科部長 市川敬太

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