遺伝カウンセリングから考える出生前診断-より良い選択のために―

トピック

1.命の誕生に向き合うということ

はじめまして。

私は、2025年6月より、大森赤十字病院で認定遺伝カウンセラーとして勤務しております加藤由里子と申します。

日々、ご夫婦やカップル、妊婦さんと向き合う中で、「命の誕生」というとても大切なテーマに向き合う仕事をしていることを強く感じています。

近年はニュースやSNSなどで出生前診断やNIPTといった言葉を耳にする機会も増えました。

「検査を受けた方がいいのかな?」

「結果が陽性だったらどうしよう…」

そんな不安や迷いを抱えて来院される方も少なくありません。

出生前診断は、「受けるか受けないか」という選択だけでなく、結果をどう受け止め、どう行動するかがとても大切です。

遺伝カウンセリングでは、検査を受ける前から結果を受け取った後まで、寄り添いながら一緒に考える場でもあります。

2.出生前診断とは何か

出生前診断とは、お腹の中の赤ちゃんの健康状態や染色体に関する情報を調べるための検査です。

<染色体を調べる遺伝学的検査>

引用元:出生前検査認証制度等運営委員会「お腹の赤ちゃんの検査の種類」
引用元:出生前検査認証制度等運営委員会
「お腹の赤ちゃんの検査の種類」
https://jams-prenatal.jp/testing/
(最終アクセス 2025年10月7日)

出生前診断は、検査を受けることで得られる安心感もありますが、結果によっては「妊娠を続けるか」「出産後の準備をどうするか」という大きな選択を迫られることもあります。

だからこそ、検査を受ける前に「受けるかどうか」「結果が出た後どうするか」をしっかりと考えておくことが大切です。

当院は日本医学会が設けている出生前検査認証制度等運営委員会にて東京大学医学部附属病院を基幹施設とした連携施設(認証医療機関)に認定されており、以下の体制を整えています。

  • 検査前に十分な遺伝カウンセリングを行い、必要な情報を丁寧にお伝えします
  • 検査を受けるかどうかも含めて、ご夫婦やカップルが納得できる選択を一緒に考えます
  • 結果が出た後も、必要に応じてサポートを行います

3.認定遺伝カウンセラーってどんな人?

「認定遺伝カウンセラー」という職業をご存じでしょうか?

まだあまり知らないという方も多いかと思います。

  

認定遺伝カウンセラーは、遺伝や染色体に関する情報をわかりやすくお伝えし、ご夫婦やご家族が自分たちにとってより良い選択ができるようお手伝いする専門職です。

大森赤十字病院では、産婦人科に臨床遺伝専門医が在籍しており、医師や助産師、看護師、医療スタッフと連携し、チームで皆さまをサポートしています。

私たちの役割は「正しい答えをお伝えすること」ではありません。

なぜなら、どの選択が「正しいか」はご夫婦やカップルによって異なるからです。大切にしているのは、「その方やご家族にとって納得できる選択」を一緒に考えることです。

4.遺伝カウンセリングではどんなことをするの?

遺伝カウンセリングは、検査を受ける前から結果を受け取った後まで、段階に応じたサポートを行います。

① 検査前カウンセリング

  • どんな検査があるか、何がわかるかを丁寧に説明します
  • 検査のメリットやリスクについてもお話します
  • 結果が陽性でも陰性でも、どんな選択肢があるかを一緒に考えます

② 検査結果後のカウンセリング

  • 結果の見方や意味をわかりやすくお伝えします
  • これからどうするかを一緒に整理します
  • ご夫婦やカップルそれぞれの想いを尊重しながらサポートします

③ 必要に応じた支援のご紹介

  • 小児科や専門医療機関との連携
  • 同じ経験をしたご家族とのつながり(ピアサポート)
  • 行政や福祉サービスの活用方法のご紹介

出世前診断は、これから生まれてくる命とどう向き合うかを考えることでもあります。

そのため、

  • ご夫婦やカップルが大切にしている価値観
  • 赤ちゃんを迎えたあとの生活
  • 家族としての未来

といった視点も一緒に整理しながら考えていきます。

5.遺伝カウンセリングで大切にしていること

私が何より大切にしているのは、「まだ答えが出ていない今の気持ち」についてです。

出生前診断に関する決断は、すぐに答えを出せないことも多くあります。

「どうしたらいいのかわからない」

「気持ちが揺れている」等々

そんな状態のままで来てくださって大丈夫です。

ご自身の心の中にある素直な気持ちを少しずつ言葉にしていく過程を、私は大切にしています。

遺伝カウンセリング後に、「相談して良かった」「気持ちが整理できた」「お互いの考えを共有できた」と感じていただけたら、私にとってもうれしいことです。

6.登山と遺伝カウンセリングの共通点

急に登山の話になりますが、私の趣味は山に登ることです。特に、テント泊が大好きで、八ヶ岳や日本アルプスの景色は今も鮮やかに心に残っています。最近は高い山に行く機会は減りましたが、家族と丹沢山系や高尾山あたりを歩き、身近な山の豊かさを楽しんでいます。

そして、山に登るたびに「迷うこと」や「立ち止まること」の大切さについて感じています。

登り道は楽ではなく、すぐに頂上が見えないこともあります。ときには立ち止まって、景色を見たり、休憩したり、一緒に歩く仲間と話したりしながら歩みを進めていきます。

登山も遺伝カウンセリングも、一歩ずつ歩みを進めながら、その方に合ったペースで景色を味わい、時には立ち止まって休み、また歩き出す―そんな共通点があるように思います。

数年前に女性だけで伊吹山(滋賀県)に登ったときの写真です。
数年前に女性だけで伊吹山
(滋賀県)に登ったときの写真です。

7.より良い選択のために

出生前診断を受けるかどうか、その答えはご夫婦やカップルごとに異なります。

大切なのは「自分たちにとって納得できる選択をすること」です。

そのためには、

  • 正しい情報を知ること
  • 配偶者やパートナー、家族とよく話し合うこと
  • 必要なときに専門家に相談すること

そして何より「一人で悩まないこと」が大切です。

最後に、命の誕生はとても尊いものです。その過程では、「赤ちゃんは元気に生まれてきてくれるかな」といった不安になることは自然なことです。

大森赤十字病院では、医師・助産師・看護師・臨床遺伝専門医・認定遺伝カウンセラー・医療スタッフがチームで皆さまを支えています。

検査を受けるかどうか悩んでいる方も、まずは気楽に遺伝カウンセリングにお越しください。

一緒に考え、寄り添い、より良い選択をサポートさせていただきます。

当院の「出生前診断」についてはこちらをご確認ください。

検査費用(税込)
NIPT120,000円
コンバインド検査30,000円
母体血清マーカー検査20,000円
羊水検査108,000円
遺伝カウンセリング10,000円

認定遺伝カウンセラー 加藤 由里子

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