患者さんに届ける音楽の力――院内演奏会が生む感動と意義

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2024年11月28日、第33回院内演奏会が開催されました。

前回のブログ記事「子供たちと大森日赤フェスタの院内演奏会 ~音楽アウトリーチの在り方~」でも触れましたが、今回の演奏会は、患者さんに音楽を直接届けることを重視したものでした。演奏してくださったのは、日本を代表する常設の弦楽四重奏団「クァルテット・エクセルシオ」の皆さまです。サントリーホールでの演奏でも知られる方々が、大森日赤に来てくださいました。今回も、大森室内楽愛好会を主宰している三木隆二郎様が企画してくださった音楽アウトリーチ活動の一環です。  

さて、どのような演奏会になったのでしょうか?

まず、私の挨拶から始まりました。しかし、これは正直ひどいものでした。普段からメモを見ずに話すことを心掛けていますが、今回は途中で言葉に詰まり、ついにメモを取り出す始末。そのメモさえ手から滑り落ち、床に転がってしまいました。なぜこのような事態になったのかと言えば、私自身、かなり気が動転していたのです。

今回の演奏会は「患者さんに音楽を届ける」というアウトリーチ活動の原点を体現するものとして準備してきました。しかし、用意していた広めの車椅子スペースには、演奏開始時点で患者さんが一人だけ。空白のスペースが目立ちます。椅子席の入りも今一つ。来ていただいた演奏家の皆様や三木様に申し訳ないという気持ちでいっぱいでした。

ところが、エルガーの「愛の挨拶」が始まると、そんな思いは一掃されました。素晴らしい演奏に浸っていると、三々五々、車椅子に乗った患者さんたちが到着し始めます。それとともに椅子席にも、歩ける入院患者さんや外来の患者さんたちが集まり、次第に空席が埋まっていきました。最終的には、車椅子スペースもほぼ満杯となり、賑わいの中で演奏は進んでいきました。

演奏が進むにつれて会場の雰囲気も一層盛り上がり、カルテットの絶妙なアンサンブルが講堂に響き渡りました。最後には、「ブラボー」と立ち上がって拍手する患者さんも現れ、アンコールでは「八木節」が披露されて大盛り上がりの中、演奏会は終了しました。

車椅子エリアの最前列で初めから最後まで聴いておられたご高齢の女性患者さんにお声をかけると、「本当に素晴らしかった。うれしい」と感想をいただき、心が温かくなりました。

≪今回の院内演奏会から感じたこと≫

1. クァルテット・エクセルシオの演奏の魅力 

1時間という限られた時間の中で、患者さんを飽きさせないプログラムを工夫し、うっとりするような瞬間から、すごみすら感じる熱気のこもった演奏を届けていただきました。感謝の念しかありません。

2. 車椅子の患者さんの特性と移動の制約

車椅子の患者さんは長時間演奏を待つ体力がないため、開演前に早めに集まることは難しいのが現実です。また、病棟から講堂までの移動には看護師さんの付き添いが必要で、機動性も低いです。演奏会の間に徐々に到着し、体調に合わせて途中退席するケースが多いのも仕方がありません。

3. 演奏会の制限とその価値

患者さんの体調管理や看護師の人手を考えると、演奏会の参加人数や時間にはどうしても限界があります。しかし、それでも車椅子で参加された患者さんの中には「もう二度と演奏会には行けないかもしれない」という方もいらっしゃいます。そのような方にとって、生演奏に接する喜びは計り知れないものがあります。

結びに

今回の演奏会は、患者さん一人ひとりに音楽を届けるアウトリーチ活動の意義を深く実感させられる機会となりました。また、病院における音楽アウトリーチが継続的に成功していくためには、演奏家の方々、アウトリーチ活動を支える方々、そして患者さんを支える病院スタッフの熱意と協力が不可欠であることを痛感させられました。皆様の協力を得て、院内演奏会をこれからも続けていきたいと改めて感じました。

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院長 橋口陽二郎

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