女性の予防医療 〜将来に備えて今日からできること〜

トピック

現在、私は大森赤十字病院の専攻医として、東京大学女性診療科からの派遣で日々診療に従事させていただいております。2024年度からは堀越嗣博部長の元、無痛分娩の拡大、出世前診断(NIPT、コンバインド検査等)、産後ケア入院と様々な変化の1年を過ごしてきました。

当院の産婦人科では妊娠・出産の対応をはじめ、人生の様々なフェーズの女性に対する診療を行っています。いずれの世代においても、身体状態の把握、治療、予防を行っていくことが重要だと感じる事が多いです。しかし、日本の婦人科受診率は欧米諸国に比べて10-20%程度低いとの報告もあります。

昨今、不妊治療の保険適応や、東京都での卵子凍結・無痛分娩の助成開始など、女性に関する医療への国や行政の取り組み方は変わってきています。そういった制度をしっかりと利用するためにも普段から意識していただける事を書かせていただきました。

1.把握:自分の月経の特徴を知る

初経、月経周期、月経期間、月経時の症状を把握することで、表面化しにくい婦人科疾患が見つかることも多いです。

また、生殖年齢女性の月経の特徴と妊孕性の相関を調査した研究では

  • 月経周期の長さは流産リスクを高める可能性がある
  • 初経が14歳以降の女性では妊娠率が低下する
  • 月経期間が4日未満の女性は妊娠率が低下する

との報告があります。

出典:The correlation between menstrual characteristics and fertility in women of reproductive age: a systematic review and meta-analysis Cao, Yingqi et al. Fertility and Sterility, Volume 122, Issue 5, 918 – 927

転換期にある方では、閉経と不正性器出血の区別が付きにくいこともあります。そういった際も、癌検査やホルモン値を測定し診断することができます。

2.治療:基礎疾患の治療

腹痛、おりものの異常、不正性器出血、妊娠、不妊など、産婦人科にいらっしゃる主訴は様々ですが、その中には様々な疾患が隠れている事がよくあります。

早期に診断をつけることは重要で、例えば、クラミジア・淋菌の感染症は卵管癒着のリスクになります。これらの感染症は抗菌薬の内服や点滴で1週間程度で治療できることが多く、将来的な不妊を防ぐ事にも繋がります。

それ以外にも軽症のうちに診断をつけることで、生活の質が上がったり、不妊症の予防になったり、悪性化を防ぐ事ができます。

3.予防:子宮ガンの予防と検査

子宮頸ガンはHPVウイルス感染がきっかけになると知られており、数少ない予防できる癌です。ワクチン接種と定期検診をWHOが勧告してから、子宮頸がんの罹患数(2022年)は減少傾向にあり、OECD加盟国平均で9人(/10万人)であるのに対して、日本では13人(/10万人)でした。先進国の中ではかなり出遅れているとの評価を受け続けています。

出典:IARC Global Cancer Observatory 2024.

頸がんワクチンは国内において諸説の議論がなされましたが、現在9価(9種類のHPVウイルスに効果を示す)までが国内で認可されており、小学校6年~高校1年相当の女子を対象に、定期接種が行われています。それ以外の年齢でも、自費にはなりますが接種可能です。また、同様にHPVウイルスの感染によって起きるとされる尖圭コンジローマや中咽頭癌の予防にも適応があるため、男性が接種する場合も効果が見込めます。ご興味がある方はご相談ください。

私自身も10代でワクチンを接種し、その後も最低2年に1回は頸がん検診を継続していますが、現在までに異常を指摘されたことはなく、効果も実感しています。(個人差はあります)

今回は産婦人科医として普段診療をしている中でもどかしさを感じることが多いポイントを予防医療という観点で書かせていただきました。

大森赤十字病院は科の垣根が低く、様々な診療科の医師との関わりを持ちながら診療を行っています。病院は主に健康に不安を感じて受診する場所ではありますが、当院のような市中病院と、周辺クリニックを上手に利用していただき、ターニングポイントが多い女性の悩みに少しでもお役に立てたら嬉しく思います。

産婦人科 安倍有紀

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