緩和ケアってなあに?

トピック
2024年1月末から大森赤十字病院に緩和ケア病棟ができます。今回は緩和ケアについてご説明したいと思います。

風邪をひいたとき、誰でも早く治ってほしいと思うでしょう。風邪をこじらせて肺炎になったら、病院で肺炎の治療をしてもらい、やはり早く治ってほしいと願うと思います。これは簡単な例ではありますが、医療には「病気を治す」という大切な働きがあります。

一方で、例えば慢性心不全といった慢性の心臓病になった場合、「慢性心不全」という病気自体は治りませんが、病院に通って心臓の働きを整える薬やむくみの治療薬などをその都度調整しながら、生命の危機を伴うような重症の状態にならないように気をつけて毎日を生活していかなければならない病気もあります。このような病気に対しては「病気を治す」ことを目標にはできませんが、「病気と上手に付き合って一日一日を無事過ごすこと」が目標になります。

はっきりと「治す」を目標とした医療は「Cure(治癒)の医療」と言え、「病気と上手に付き合って一日一日を無事に過ごすこと」を目標とした医療は「Care(ケア)の医療」と言えます。

緩和ケアでは「Care(ケア)の医療」を専門に行います。
緩和ケアは歴史的に「がん」に伴う苦痛症状(つらさを伴う症状、痛み、だるさ、息苦しさなど)を対象としてきました。現在では緩和ケアの対象は「がん」だけでなく、慢性心不全、慢性呼吸不全、慢性腎不全といった慢性の病気を中心に多くの病気に伴う苦痛症状に広がってきています。緩和ケアは病気そのものに対しての対処ではなく、そのときそのときの病状にあって患者さんが感じている苦痛症状を少しでも和らげることを、薬だけでなく看護、介護、リハビリテーションなど色々な職種の力も借りて多方面から考え、対処していきます。緩和ケアの考え方は、患者さんが「完全に治すことができない病気と付き合いつつ、少しでも穏やかに日々の生活を送っていけること」を目指します。緩和ケアは日々の生活を支える医療ともいえるでしょう。

残念ながら緩和ケア病棟は、現状では医療保険の決まりとしてがん患者さんのみが入院できる施設です。しかし、生活を支える医療である緩和ケアは、同じく在宅で生活している患者さんを診る在宅医療のなかでは、がん患者さんだけでなくほぼ全ての患者さんに対して普通に行われています。

近代ホスピス、緩和ケアを作ったイギリスの医師、シシリーソンダースは「あなたはあなたのままで大切なのです。あなたは人生最後の瞬間まで大切な人です。ですから、私たちは,あなたが心から安らかに死を迎えられるだけでなく、最期まで精いっぱい生きられるように、最善を尽くします」との言葉を残しています。

「最後まで精一杯生きられるよう」な援助をしていくことこそが緩和ケアの目標なのです。

緩和ケア内科部長 茅根義和

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