その心房細動、治せるかも(改訂版)

ホスピタル

心房細動は日常診療でも遭遇することの多い不整脈疾患です。有病率は年齢とともに上昇し、日本循環器学会ガイドラインによれば2005年時点で72.6万人が心房細動を有し、2050年には約103万人、総人口の約1.1%まで増加すると試算されています。

心房細動は経過によって発作性(7日以内で消失)、持続性(7日以上持続)、長期持続性(1年以上持続)、永続性(除細動不能)に分類されます。発作性を繰り返すうちに持続性、永続性となることもありますし、見つかった時、すでに永続性のこともあります。持続時間が長くなるほど、元に戻るのは困難となります。

心房細動の誘因としては高血圧、糖尿病、肥満、睡眠呼吸障害や喫煙他、様々な要因が考えられていますが、どれも1つだけが原因ではなく複合的な要因も考えられているので、どれかを改善すれば防げるというわけではありません。

無症状な方もいますが、多くの場合では心房細動を発症すると動悸、胸部不快感や心不全合併による症状で生活が大きく阻害されます。そして心房細動の10-40%は毎年入院すると言われ、全脳梗塞患者の20-30%は心房細動が原因と考えられています。

これは心房細動では心房が小刻みにケイレンしているため血液が淀みやすく、それにより血栓が生じることがあります。そしてその血栓が脳へ飛散することで脳梗塞(心原性脳梗塞)を合併するリスクがあるからです。

こういった血栓塞栓症を予防するためCHADS2スコアというものを用いてリスク評価を行い、ワーファリンや直接阻害型経口抗凝固薬(DOAC)といった薬を内服することで適切な抗凝固療法(血液をサラサラにする薬の内服)を行うことが推奨されています。内服している間は血液が固まりにくくなりますから、鼻血や怪我をした際の出血は止まりにくくなりますので注意が必要です。

心房細動に対する治療は、近年の臨床試験の結果から、正常な調律(洞調律)へ戻すよりも心拍数をコントロールする治療に重きが置かれています。これは大規模臨床試験の結果、正常な調律に戻しても脈拍数をコントロールしても全死亡、心血管死や心不全入院など生命予後に変わりがない事が示された為です。

しかし、動悸や胸部不快感など自覚症状が強く、生活の質Quality of life(QOL)が損なわれている場合には洞調律への復帰を目指したほうが良い事があります。中でもカテーテルアブレーションはその有効性から、抗不整脈薬で効果の乏しい症状のある心房細動に対して洞調律の復帰、再発予防を目的とし行われるようになりました。マッピングシステムの進歩やクライオバルーンといった新たなデバイスの開発などが大きく影響していると考えられます。

そして弁膜症(特に僧帽弁疾患)に伴う心房細動(弁膜症性心房細動)の場合、薬物でのコントロールやカテーテルアブレーションでは洞調律復帰が見込めない事があります。その場合、弁膜症手術とともに行われるのが心房細動手術、いわゆる『メイズ手術』です。日本循環器学会のガイドラインでも弁膜症に伴うメイズ手術は推奨されています。

メイズ手術はミズーリ州にあるワシントン大学でDr.Coxの下、考案された治療です。

メイズ手術の基本は、心房細動発生の起源とされている肺静脈や心房にブロックラインを形成し刺激伝導を遮断することで心房細動の発生を抑えます。

この手術が考案された当初は心臓を切って縫う(Cut and Sew)ことでブロックラインを形成していたので、出血量は多く、手術時間も長いものでした。それが現在ではデバイスの発達により、ブロックラインの作成が容易となり手術時間の短縮や出血の減量も可能となりました(下図)。メイズ手術の基本は肺静脈と心房筋の確実なブロックラインの形成です。このブロックラインが不完全であると心房細動の再発や、弁輪周囲を回る心室頻拍の原因となり、追加の治療が必要な場合があります。もちろん全ての心房細動が治るわけではありません。左心房の拡大や長年にわたって心房細動が維持されて心房の働きが弱いなど、心臓の状態によって心房細動が止まらない可能性があり手術を行わないこともあります。

J Thorac Cardiovasc Surg. 2022 Feb;163(2):629-641.e7.より

大森赤十字病院では、心房細動に対するカテーテル治療を循環器内科が担当し、弁膜症を伴う心房細動やカテーテル治療後も繰り返す心房細動の方への手術治療は心臓血管外科で担当しています。心房細動に対する治療成績は施設によってまちまちで60%のところもあれば90%以上のところもあります。

心臓血管外科での心房細動手術については渡邉が担当いたします。

ここで私の経歴の一部をご紹介いたします。1998年日本医科大学を卒業し、同年心臓血管外科(旧第二外科)に入局しました。日本医科大学付属病院心臓血管外科は、以前より積極的に不整脈治療をおこなっている都内でも数少ない医局です。そこから2012年にメイズ手術治療の発祥地であるワシントン大学で約2年間、不整脈治療研究を行い、帰国。その経験を臨床現場に生かして治療を行なっています。今までの治療成績は心房細動再発回避率92%、ペースメーカ植え込み3%です。

残念ながら全ての心房細動が治療できるわけではありません。状況によっては手術治療よりもカテーテル治療や内服治療が有効な場合もあります。外来では治療についてだけではなく、不整脈治療全般についてもご説明いたします。何を隠そう、私自身も不整脈治療歴があるため、皆様には自身の経験から色々とアドバイスもできると思います。ぜひご利用ください。

★外来

心臓血管外科外来(渡邉)毎週火曜日 午前
大動脈外来(渡邉)毎週水曜日 午後

心臓血管外科部長 渡邉 嘉之

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1998年日本医科大学を卒業し、同年心臓血管外科(旧第二外科)に入局。その後、千葉北総病院や榊原記念病院などでの勤務を経て、2012年にはメイズ手術治療の発...

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